受診者が症状の原因をどう解釈するかを解釈モデルといいます。開かれた質問で開始すると、しばしば患者は受診に至ったきっかけや解釈モデルを話します。話されなかった場合には「今の症状は何が原因だと思いますか」と質問し、その返答に真の受診の動機やニーズが隠されていることがあります。それによって自分の体がどう心配なのか、どうして欲しいのかが間接的に語られます。「自分も親・兄弟と同じ癌ではないか」「昨日のテレビ番組でやっていた症状と似ているかもしれない」と思って受診を決意するような場合です。
強制的に受診させられる場合を除けば、症状なしに受診するときにも解釈モデルに相当する心の働きがあります。健康信念モデルでは、その心の動きを一般化しています。罹患性「自分は罹りやすい」、重大性「なったら大変だ」、きっかけ(周囲のすすめ、マスコミ、検診など)の3つが心に働きかけて、心配や脅威の感覚が受診の面倒さを上回り、危険回避行動として医療機関の扉を叩くというわけです(図)。単に自動的に「コレステロールが高いので受診した」ということはなく、受診にいたる個人的な心の動きや価値判断が存在するのです。その動きを明らかにするように話を聴き出すのがポイントです。
患者 「先日のテレビ番組を見てから、妻が行けとうるさいので・・・」
「実は兄弟が心筋梗塞で倒れてから心配になって・・・」
「今、倒れるわけにはいかないので・・・」
医師の知識からすると不合理な解釈のことも多々ありますが、これを頭から批判すると治療関係は作れません。解釈モデルの扱い方で後々の通院や治療のコンプライアンスに影響がでてくることもあります。まず受容して受診の医学的重要性を付与し、受診したことを評価してから医学的説明に入ると受け入れられやすいと思います。「無症状でも、突然厄介なことになる場合もありますから、とても大事なことですね。
忙しい中をよくいらっしゃいました」
実際、生活習慣病では解釈モデルの変化が治療への第一歩になる。例えば「検診で血糖値が高いのは、昨晩飲み過ぎたからだ」と日頃の生活ぶりに無関心であったものが、「父も生前は糖尿だった。遺伝と運動不足が関係しているらしいから、運動したらよくなるのだろうか」と運動不足について熟考し始めるようになれば、行動変容のステージを一歩進んだといえます。自分では大丈夫だと思っても家族や自分にとって重要な人から解釈モデルを受け取って受診することもよくあります。妻に『おかしいから行ってきなさい、癌やったらどうするの!』といわれまして・・・」という具合である。このように家族の見立ても広い意味で解釈モデルである。「入院させてくれないと心配だ」、「こんなに早く退院させられたら心配だ」という家族の思いは入退院の決定の際にしばしば対応を迫られます。その解釈モデルを発した家族はたいていkey personですから、その人に納得してもらうことが問題解決には必要です。

表. 解釈モデルの尋ね方
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1.なぜその時に、その症状が起こったのだと思いますか?
2.「なぜこの病気にかかったか、思い当たることがあれば教えてください。
3.「病気や症状のせいで、どんな気分になりますか?
4.「そのために生活や仕事に支障がありますか?
5.「病気や症状のことで、他に心配していることはありますか?
6.「検査について何かご希望はありますか?
7.「治療について何かご希望はありますか?
8.ご家族(あなたの周りの人)はどうお考えですか?
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医療者への期待、診療内容への希望を再検討する
解釈モデルに基づいて「大きな病院に行って、○○検査を受けないといけない」というところまで考えて来院する受診者は案外多いようです。それでも「的外れかもしれないので、言いにくいな」と感じているかもしれません。そこで、こちらの考えた診断・治療方針を示すだけでなく「検査や治療についてご希望はありますか」と尋ねるように習慣づけるとよいでしょう。害のない検査なら可能な範囲で患者の希望を取り入れてゆくことは、受診者の不安の解消や満足感に直結します。念のために無駄ではないと考えれば患者の希望を取り入れます。まったく的外れで無駄と考えられるなら、「その心配を拭い去るのに他にもっとよい方法があります」と説明するか、受けるメリットとデメリット(時間・費用・副作用)を説明してから選択してもらいます。不安を残すと、ドクターショッピングを始める可能性があります。医療者が何を考え、何をしようとしているかをわかりやすく説明できる能力が必要です。
簡単に検査が受けられる今の状況では、よほどの信頼関係になければ説明だけで安心する人は少なくなってしまいました。そしてすぐ検査して調べてくれるからあの病院は安心だ、などと勘違いする患者さんがいるのは困ったことですが、不安な気持ちを取り上げて共感したほうが、こちらの話に耳を傾けやすくなります。
<ケース1>
患者「肺癌かもしれないのでCTを撮ったらと友人にいわれたのですが」
医師「タバコの本数が多いので肺癌を心配されているのですね、それでは肺癌の心配につい
てはCT scanと細胞診で詳しい検査を、咳の症状については咳止めをお出しするという
ことでよろしいですか」
患者「できれば薬はのみたくありません」
医師「薬はのみたくないんですね。タバコをがんばって減らそうとされているようですし、喫煙
の問題は診断が解決したらお話しましょうか」
<ケース2>
医師「これまでの検査結果からは、狭心症の疑いが濃厚ですので、心臓カテーテル検査を受
けられたほうがいいと思います。」
患者「私の知人がカテーテル検査を受けて亡くなったんです。どうしてもやらないといけないん
でしょうか」
医師「検査がもとで亡くなられたんですか? それは驚かれたことでしょう」
後のケースでは、共感のプロセスなしに副作用の頻度が低いことを安心の材料に使って説得にかかるべきではありません。患者にとってそれが唯一の経験である以上、頻度が低いことで簡単に納得せず、むしろ反発してもう来院しなくなる可能性があります。われわれの考えた方針と患者の希望との不一致については客観的に分析すべきですが、患者の主観からの分析も必要です。自分の得意分野・専門分野にかかわる事項を重要度が高いとみなす癖があり、詳しいデータを持ち出して説得にかかりますので専門医は常に自問自答が必要です。予後や治療可能性がよくわからない事項については、正直に述べて他科コンサルテーションの希望を聞いたほうがよいでしょう。
複数の問題を抱えて来院した場合は、問題リスト中の個々の問題について受診者の希望を尋ねたり、それぞれの方針を呈示してそれでよいかを確認します。
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