心理・社会的側面を重視した病歴を取る心構えは、患者さんが主人公の物語を書き上げる気持ちで臨むことです。そのために主導権を奪わないことを心がけます。具体的には、開かれた質問を用いること、話を遮らないこと、病名や症状を主語にしないことなどが要点としてあげられます。
病名や症状に主語をつけて開かれた質問をする
−患者参加型医療のスタート
問診表を書かせておきながら「今日はどうされましたか?」とワンパターンの質問から入るのはやめましょう。話の切り出しは問診表に書かれた症状を取り上げればよいのですが、「○○さんは・・・が痛むのですか? 詳しく聞かせてください」と主導権を渡してます。このopen question によって、自分の言葉で話してもらい、受診者の生活場面や人柄、性格、教養まで部分的に知るチャンスが生まれ、情報量が多くなります。また症状ではなく相手の名前を主語にすると、お互いの距離が縮まります。既往歴なども「○○さんの心筋梗塞について、教えてください」となります。
閉じた質問で話をさえぎる医師
私達は聴きながら鑑別診断を意識する癖があり、そのために関連する質問や別の質問をして話を途中でさえぎることがよくあります。医学的知識の豊富さと早く診断をつけたいというあせりが情報収集の邪魔をするのです。一般内科での面談についての研究で、患者がさえぎられることなく話せる時間は平均18秒間で、もし話をさえぎらない場合の患者の話し終える時間はせいぜい1分であることも指摘されています。重要なことを後のほうで述べる患者もいるので、さえぎらない方が得策ということになります。
次の2つの例を比較してください。
<ケース1>
医師A 「調子はいかがですか」
患 者 「・・・朝この血圧の薬をのむと眠くなるんです」
医師A 「ふらつきや立ちくらみもありましたか」(中断、閉じた質問)
患 者 「いいえ」
医師A 「血圧は測ってみられましたか」(中断、閉じた質問)
患 者 「いいえ」
医師A 「睡眠時間は何時間ですか」(中断、閉じた質問)
患 者 「5時間です」
医師A 「それではもう少し睡眠をとってみられては」
患 者 「・・・はあ」(薬のことを相談にきたのになあ)
<ケース2>
医師B 「○○さん、調子はいかがですか」
患 者 「・・・朝この血圧の薬をのむと眠くなるんです」
医師B 「その薬で眠気が起こってお困りなんですね」(反復・確認)
患 者 「ええ」
医師B 「○○さんが特に困るのはどのような時ですか」(具体化)
患 者 「営業に出る車の運転中に眠くなるんです」
医師B 「それは困りましたね、飲めそうにないとお感じですね」
(共感、飲むことに対する抵抗の気持ちを尋ねる)
患 者 「・・・実はそれであまりのんでないんです」
医師B 「飲まないほうが、どうもよさそうだということですか」
(飲まないことの価値判断の気持ちを尋ねる)
患 者 「・・・血圧が下がらなかったら、それも心配です」(葛藤)
医師B 「それはごもっともですね、両方の心配を解決するために
寝る前に薬をのむというのはいかがでしょう 」(葛藤の受容、提案)
患 者 「それでもいいんですか、のんでみます」(話してよかった)
医学的決断を下すために、医師Aは考えうるその他の副作用の有無を調べようといろいろ尋ねています。しかし主導権を奪ってしまいました。いわゆる訊問と同じで、主導権は聴く側にあります。患者さんのストーリーを導き出す姿勢が感じられません。結局、気の弱い患者さんは思いを打ち明けられずに「話した甲斐がない」と思うでしょう。5W1Hなどは後で足りない点を補足しないと、このような質問の連続になり、受診者は自分の症状を十分に伝えられたという満足感がありません。また「その症状はいつからですか」と尋ねることがよくありますが、症状を主語にして中心テーマにすると、人物から切り離したことで患者との距離が生まれます。そればかりかこのケースでは「眠気」を一症状として客観視したために「血圧を下げたいが、眠くて仕事に支障がでるのでどうしたらよいか」という患者個人の生活上の悩みを聞き逃してしまいました。閉じた質問の繰り返しのために情報の中身が客観的データのみに限定され、話の展開が切れます。話を遮る質問の多くが「はい」「いいえ」で答えるようないわゆる閉じた質問closed questionです。Closed questionは客観的だが情報量は少なく、結局は重要な情報が抜け落ちることがあるということを、覚えていてください。
医師Bは話をさえぎらずに患者さんが一番困っている事実を具体的に引き出すのに成功しました。反復や言い換えをさしはさむことで、「聴いていますよ」というメッセージを伝えて話を促してゆきます。正確に理解したことを伝えるには、「お話しはわかりました」というのではなく、話を要約して繰り返し「・・・ということですね」と確認することで、すれ違いを防ぎます。話の内容がよくわからない時には「ちょっと待ってください、・・・という意味ですか」と内容を具体化させる質問で中断せずに明確にしておきます。
症状がでて困るという生活上の場面を具体化し共感したことで、実は薬をのんでいないという言い出しにくい事実を患者さんは告白できました。そして薬をのまないという決断に受容的態度で接することで、その裏にある患者さんの不安や心理的葛藤にまで焦点をあてることができます。服薬などの治療の継続性を高めるには、心理的な障害も含めて明らかにし、取り除く必要があります。
最初から鑑別診断を強く意識せず、その人の固有の病(やまい)体験のストーリーを作り上げるつもりで臨みましょう。「自分(の話)を尊重してもっている」という感覚が生まれなければ、治療関係に入る上で障害となります。
<参考文献>
Bechman HB,
Frankel RM: The effect of physician behavior on the
collection of data. Ann Intern Med 1984;101:692-696.
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