患者さんの心をつかむ、聴きかた、話しかた 


第2話 回診時の心得 「病室は患者さんの家」という感覚をもつ


 最近の病室はプライバシー保護が強く求められていますが、患者さんが料金を支払って借りている部屋であるという、一歩進んだ発想を常に持ちたいものです。ノックをして入室・回診のOKを取り、座ってよいか許可をもらうことで「ここは貴方の部屋です」という尊重のメッセージを送ることになります。「ここは自分の部屋なんだ」と感じて、安心してもらうためです。

 座ってから同じ目線で話を聴くのがよいのはいうまでもありません。床に臥している患者には話を聞く視線の高さと距離を調節するために、座った上でさらに前かがみになります。立ったまま話を聞くと「私は忙しい」というメッセージを患者さんが受け取ってしまい、本当に言いたいことが言えずに後で看護師に話すことがあります。悲しいかな、せっかく回診した後で、また病棟からコールをもらう羽目になるのです。

「先生、○○さんが皮膚科受診を希望されていますので、紹介状お願いします」
「えっ、たった今回診したばかりなのに、何も言ってなかったけどなあ」



「お困りのことはありませんか」を回診のノルマにする

 部長回診では細かな病状を主治医のようには把握していませんので「入院して一番困っていることはなんですか、心配なことはありますか?」と質問すると、カルテにはない情報が次々と寄せられます。主治医とは違った角度で診ているのでしょうか。私の経験では「お変わりないですか?」という訊きかたでは得られない情報がでてくるようです。おそらく患者さんはこの聞き方をされて、体のこと以外は先生には話してはいけないと思うのでしょう。「今、一番困っていることは何ですか、他にお困りのことはありませんか?」という問いかけによって、利用者の満足度アップ、リスクマネージメント、見過ごされた病態の発見につながることを経験しています。

 あるとき、よそから転院してきた患者さんに「移られてお困りのことはありますか?」と尋ねると、「ここに移ってからお風呂に入れてもらえません」と話されました。「微熱があるからだめなんです、気分は変わりないんですが・・・」、「ここに移ってから体温が高くなったということですか?測る時間などは変わりましたか?」、「以前は右で体温を測っていましたが、ここでは右腕で血圧を測るので体温は左です」とも教えてくれました。左腕には透析用のシャントがあったので、実際に左右同時に測定してみると動脈血が皮下を流れる左側は0.4℃も高いことがわかりました。
 
 部屋の奥側の腕に点滴を置くと入り口にあるトイレに行く時に面倒で危険であることも、ある患者さんが教えてくれました。それ以来、カテーテルを留置するときに、個室ではベッドの向き90度を変えることなどを指示しています。



患者さんの生活を知ると、治療関係には必ずプラスになる

 入院患者さんの主治医となると、患者さんのプライベートな問題や家庭の問題にタッチする機会が増えるはずです。そういった生活者の視点に立った情報を無視せずに、むしろ丹念に集めるほうがよいと思います。退院後の治療継続にも関わってきます。慢性疾患や障害をもった患者さんではナースをはじめ、PTやMSWとの情報共有が不可欠であり、医師がチーム医療の中でリーダーシップを発揮するために必要なのです。このような活動にまったく興味がないうちは、臨床医としての成功はありえないと考えてください。
 
 家庭の問題まで自分にさらけ出すということは患者さんからの信頼の一つの証です。信頼のメッセージを受け取ったときは返事を返しましょう。相手との
距離も重要で、肉親ではないので近寄りすぎていけないけれど、プライベートな内容について離れた距離で会話を交わすのは不自然です。動かずに手を伸ばして脈をとれる距離、一歩前に出て肩に触れることができる距離が実用的で


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