不定愁訴ではしばしば背景に仕事や家庭でのストレス、あるいは自分で制御できない仕事による不健康的なライフスタイルがみられます。しかし身体症状を主訴に受診した場合、言いづらいか本人が意識していないために最初に語られないことも多いようです。そこで食欲、睡眠・休息、酒量、食生活などについて閉じた質問をした後で問題点に対して、それはつらいですねと共感を示した後に次のように尋ねると抵抗が少ないでしょう。
医師「患者さんはよく仕事(家庭)での悩みや変化で体調を崩されますが、○○さんにもそういうことがあれば教えてください、何か大変なことはありますか」
第三者には対処不可能な個人的事情が語られることを恐れる余り、身体症状の話題に終始してしまうことがありますが、第8話の最後でお話ししたとおり、傾聴され共感されることによって、孤独感が解消し、前向きな気持ちが芽生え、健康的なライフスタイルに戻ろうとすることがあります。うつや心身症を的確に診断し、ドクターショッピングや無駄な検査・治療を減らすためにも聴く必要があります。話を聴くことが即診断や治療につながってゆくのです。
医師 「そうですか、それは誰がみても大変な状況ですね」
「つらいときはどうしていますか」
「この問題で相談できそうな人はいますか、もう誰かに相談しましたか」
患者 「わたしが全部悪いんです」
「誰も助けてくれる人は見つかりそうにありません」
孤立感などの陰性感情をラベリングし、人間関係、コーピングスタイル、情緒的支援の有無や社会的支援の不利用など、現象を客観的に整理して共感しながら患者にフィードバックする。カウンセリングの原則として、行動指針のアドバイスは行わず自己決定をサポートします。
絶望感は病気の予後に悪影響し、死亡率を高めるというデータがあります。この研究ではたった2つの質問の答えをスコア化して追跡調査しています。
質問:1.私の目指しているゴールに到達するのは不可能だと感じている。 2.未来に希望はないように思え、事態が好転するとは信じられない。スコア:4=きっとそうだ、3=どちらかといえばそうだ、2=どちらでもない、1=どちらかといえばちがう、0=きっとちがう。
そのほか、怒りの感情や抑うつが脳卒中・心臓発作の発生頻度、動脈硬化の進行と関係することもわかっています。

聴く技術の治療への応用 −癒し効果のメカニズムー
聴くことには癒し効果があるといわれますが、どのようにすればよいのでしょうか。そのためには、その状況で患者さんが「どう感じたか」を訊ね、その感情を正当化する必要があります。感情=本心=自己の一部ですから。患者の視点から、話せて楽になる理由がいくつかあげられます。
@ 受容され理解されたと感じるため、孤独感、孤立感、絶望感が解消される。
A 感情に目を向け、感情を意識化・言語化して発散する。悪い感情を無意識に閉じ込めると身体化(不定愁訴)や代償行動(喫煙、飲酒、過食など)となって顕れることへの気づき。不健康行動が感情と結びついているときに脱するためには“気付き”が必要である。意味を見出す意味付けの作業でもある。
B 他者からの視点を得て問題の整理を一緒にしてゆく中で、解決への希望が見えてくることがある。枯渇状態の考えるエネルギーを補い、悪い方にばかり考える癖を方向修正する機会となり、前向きな問題解決型思考への転換が生じる。
C 葛藤を認め、引き受ける。相反する感情を吐露させて、両者を肯定し、あるがままを受け入れられるようにする。
進行した乳癌の患者さんにグループカウンセリングを行って、予後の大幅な改善がみられたという報告があります。ここでも、陰性感情の発散方法と葛藤の整理方法を学ぶようですが、中でも医師に自分の要求を表現する方法を教えているというのは興味深いことです。
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