患者さんの心をつかむ、聴きかた、話しかた 


第1話 出会いの瞬間にひと仕事 -あいさつ前の微笑みアイコンタクトのすすめ-


人間はいくつになっても周囲の関心を引きたい願望を持っています。まして体調が悪いのですから、周りの人からいたわってもらいたい状況です。その願望を満たす方法として、患者さんが入室後にこちらを見るまで視線を送りつづけます。「見つめています=しっかり診ていきます」というメッセージです。微笑みながらアイコンタクトすることで関心とやさしさを伝えることができます。そうすることで患者さんは医師が自分の味方であることを感情的に受け取ります。不安が取り除かれ、話を打ち明けやすくなり、医師の言うことを信じやすくなるなど、いろいろな効果もあります。
 これは心理学的にみると、非言語コミュニケーションによる陽性の「コード化」(encoding)を利用する手段です。出会いの時の印象が悪いと同じことを話しても悪いほうに受け取られることがありますが、これは相手が最初にマイナスのサインを受け取ってしまったのです。アメリカの心理学者メラビアンによれば、話し相手がどんな人物であるかを判断する材料として、話の内容よりも言葉の調子や表情などの非言語コミュニケーションのほうが、数段影響が強いことを定量的に示しています(下図)。                                                       
                                          動物学者によれば、霊長類は他の動物よりも顔面の筋肉が発達しており、様々な表情をみせます。そして霊長類だけが表情を読み取る視力と知能を備えており、社会生活のための情報交換手段として顔の表情によるコミュニケーションを発達させました。チンパンジーでは少なくとも
10種類の情報伝達が確認されているそうです。その中で人間以外のサルたちは白目がないので視線がわかりにくいのですが、これは闘争相手に次の動作を読まれないのに好都合です。しかし人間だけは白目があって視線の動きがわかりやすく、アイコンタクトがうまく利用できるのです。


 続いてあいさつですが、患者さんのフルネーム確認をして、立礼しながら自己紹介します。先に坐ってもらい、自分が最初に坐る距離は握手のできる距離、お互いが手を伸ばして届く距離ですから150cmくらいが適当です。次に述べる話の導入が終われば、体の向きを正面からやや机よりに角度を変えてメモを取れるように坐ります。10秒以上も見つめ続けたり、いつまでも正面を向いていると患者さんは話しづらくなります。視線の合わせ方により相手に対する好意とともに、コミュニケーションの意志が伝えられます。もっと話を聴きたい時は視線を合わせ、聴きたくない時はそらすといった具合です。

 ただしアイコンタクトの瞬間に、苦痛の表情や深刻な表情であれば、こちらもニコニコ落ち着いていてはいけません。相手が急いで何かしてほしいようだと察したなら、「おつらそうですね、ベッドに横になられますか」と真剣な表情で気遣いをみせながら、てきぱきと手短に話すことになります。急ぐ相手なのかどうかで、態度を変えてください。話すスピードや口調などを相手のペースに合わせることは、ペーシングという技術です。

 言葉の獲得により、現代文明が発展し、医学も進歩したことは疑いようがないのですが、われわれ人間には古い脳も残されていて、感情と身体を結び付けています。言葉だけでは深い満足を得られない存在でもあるのです。最近はオーダリングシステムの導入で、パソコン画面を見る時間が長いのですが、初診の患者さんの入室時に医師がパソコンを見ていたのでは、大切な瞬間を台無しにしていませんか。



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